2011年5月4日水曜日

一瞬の傲慢がつくりだした無謀


言うまでもないことかもしれないが
文化は風土と一体のものとして育まれる。
そして私たちの日本の文化もまた
世界的に見て稀有なほどの
豊かな自然の条件のなかで育まれてきた。
緩やかに絶え間なくうつり変わるけれど
耐えられないほど厳しくはない温暖な自然。
暖流と寒流、そしてそれらがぶつかり合う地点に位置する
島々の集合体である日本では
私たちは太古の昔から
深い山々と豊かな海
そして山から海へと澱むことなく流れる無数の川の
清らかな水に育まれて生きてきた。
山から海へと、海から山へと
吹き過ぎる清らかな風とともに生きてきた。
そこからとれる山の恵みや海の恵みが
私たちの体をつくってきた。
それらを等しく慈しむ気持ちを育んできた。
それらをいただき慈しむ
さまざまな知恵を育てて生きてきた。
また私たちの先祖は
山と海との間を速やかに流れる水を
ゆるやかに受け止め
そしてゆるやかに流す田んぼをつくり
季節を計って稲を育て
その恵みを蓄えて生きのびてきた。
水を蓄える画期的なインフラでもある田んぼは
私たちを養うとともに、土を育て
さまざまな生きものを育てて
それがなかった時よりもむしろ豊かな
柔らかで多様な自然を培いながら
おなじ場所にとどまり
そこがより豊かとなることを願って生き続けるという
私たちの生き方を育ててきた。
そのなかでこそ育ち得る豊かさと知恵のなかで
そうすることによって培い得る
個有で多様で繊細な文化を育ててきた。
そこではかんがいと麦で生きる場所のように
塩害で畑を捨てて別の場所に行かなくても良かった。
なくした土地の代わりに
ほかの土地を奪い取らなくてもすむ
静かな文明を育て、育て続けることもできた。
山あいや、海辺に広がるわずかな平地に
寄り添いあって生きながら
清らかな水と空気と
それと一体になった細やかな田畑の恵みや
豊饒な海の恵みを
ありがたいこととして受け取る
気持ちを育てながら生きてきた。
うつろいうつろう季節とともに生きながら
人と自然との触れ合いを
人と人、そしてはるかな時との触れ合いを
謡い謳って生きてきた。
太古の昔から育んできた
そんな私たちの暮らしや文化の基盤そのものが
いま脅かされている。
風土が壊れれば文化も壊れる。
空気を汚し、水を汚し、土を汚し、海を汚し
人の心や体を汚す原発など
あってはならない。
というより
もともとあってはならなかった。
それは人が歩んだ長い長い時の流れの中の
一瞬の傲慢がつくりだした無謀。
取り返しのつかない無意味な悔恨を
果てしなくつくり出す一触即発の危険を抱えた
凶暴な一つの装置にすぎない。
戦争や武力を放棄することを
かつて宣言した国であってみれば
世界で唯一原爆を落とされた過去を持つ国であってみれば
原発も消滅させるという
勇気ある知恵を持つことを目指していいはずだ。
そしてそれは私たちと
私たちの文化にふさわしい選択だと思う。