ふぶき虫
あなたの町の空がいま
青く澄み渡っているからといって
どこの町の空も、同じように
晴れているわけではない。
それと同じように、あなたの町にいま
雨がザンザン降っているからといって
どこの町でも、同じように
雨が降っているというわけではない。
ところが
あなたの町に雨が降ろうが晴れようが
どこかの町に花が咲こうが枯れようが
いつでも、どんなときでも
吹雪が激しく絶え間なく
吹き荒れている山がある。
そして、その山の上で
いつでも、どんなときでも
そんな悪天候をものともせず、
空の彼方を見守り続けている虫がいる。
あなたの町の空に今日
空に大きな虹がかかったからといって、
明日も明後日も、同じように
虹が空にかかるとは限らない。
それと同じように、あなたの町の空から今日
爆弾が降り注ぎ町が燃えたからといって
明日も明後日も、同じように
空から爆弾が降り
町が燃えなければならない理由はない。
だから、いつでもどんなときでも
吹雪が激しく絶え間なく吹き荒れている山の上で
そんな悪天候をものともせず
空の彼方を見守り続けている虫がいる。
いつでも、どんなときでも
どこかでは……
霰が降り、嵐が吹き
土が干上がり、山が崩れる。
いつでも、どんなときでも
どこかでは……
涙が流れ、血が流れ
心が病んで、体が萎える。
いつでも、どんなときでも
どこかでは……
唄が溢れ、笑みがこぼれ
心が溢れて、体が踊る。
だから、いつでも、どんなときでも
吹雪虫は
吹雪吹き荒れる山の上から
瞳の奥に青空をたたえて
遠い彼方を見守り続ける。
谷口江里也+海藤春樹『虫たちの午後』より